まいにちワンダーランド

~過去をはき出し光に変える毒出しエッセイ~森中あみ

売らないものを売る人。

ヨドバシカメラに行った。主人の血圧計を買うためだ。ついでに、電子書籍を見るためのタブレットコーナーに寄った。とはいっても、特に必要にかられているわけでもなく、なんとなくKindleが気になるなーくらいの感覚。数あるタブレットをなんとなく眺めていると「お探しですか」と声をかけられた。いつもなら、「あ、大丈夫です」と断るところ。しかし、なぜかその声のトーンに「Kindleが気になるんですけど、こーゆーのってどうなのかなーって」と悩みを口に出していた。その店員さんは、見慣れないスタッフジャンパーを着ていた。ヨドバシの人でもなく、WIFIの人でもない。誰だろう。そのうちに、ショーが始まった。「実は僕もKindle持ってるんです。これが…」から始まり、Kindleの良さ、悪さ、次にAndroidタブレットの良さ、悪さ。とたんに引き込まれていく。「ところでお客様、iPhoneをお持ちですか。」ときた。お、Macを勧めてくるかと思いながらも「はい」と答える。すると「僕が今からiPhone本当の使い方を教えましょう」え、何それ。めっちゃ気になる。場所を変え、Appleコーナーへ。「始めに僕はAppleの社員でも、Windowsの社員でもないので、どちらもディスれます」ときた。そう言われれば、押し売りされる心配もなく、どれどれ話を聞いてみよう。と身を乗り出した。すでに楽しくなっている。

約20分後。なるほど。iPhoneiPadも単なるリモコン。最終的にはMacパソコンなら、iPhoneを落としたり、データの管理、ファミリー共有、すべての面倒くささから開放され、さらには時間を有効に使える社会人になれる気がした。

しかし、私たちが買いたいのはタブレット。さぁ、どうする。結果的に高いものを買っても仕方がない。2年くらいで捨てるつもりで、安いタブレットWiMAXを付け、お得に買えばいいかも。という結論に落ち着いた。おそらく、一ヶ月以内に購入するだろう。彼のマジックに乗せられながらも、誰も知らない情報をたっぷり仕入れた気になって満足している自分がいた。ここまでの知識を手に入れたのだから、買い物も間違いないはず、とも思えてきた。

さて、彼はいったい何者だったのか。最後にこれだけ真面目に言います。といってウィスルバスターの話になった。iPhoneに入れられるウィルスソフトは、ここだけらしい。彼はその社員だった。えぇーーー。この1時間は、そのためのものだったの。私たち茫然。どうやら、彼の手腕をかられ、大型店舗3つ目らしい。どうりで。彼なら信頼できるし、ウィスルバスターもいっしょに…となるお客さんがいるのもわかる気がする。Appleタブレットの話よりも、彼の生き方、仕事への情熱に心打たれた。

最後の彼のひと言。「結局、買い物はモノではなく、人ですからね」と。ほんまやー。スティーブジョブズさん、柳井さん、豊田さん、あらゆる経営者の人となりを見て、最終的にわたしたちはモノを買っているのかもしれない。どんなしこでもいい。私も「あなただから」と言われる人になろう。そう教えてもらった週末だった。