まいにちワンダーランド

~過去をはき出し光に変える毒出しエッセイ~森中あみ

ふうふ、ふたり。

9月8日入籍記念日。結婚記念日は別にあって、特別感はちょっと低め。けれど朝起きて何も準備しなかったことを悔やんだ。「今日はムリか」そんなひとり言で1日が始まった。

仕事が終わったのは20時過ぎ。1年で一番忙しいこの時期。やっぱり主婦とフルタイムの両立はきついわ、となげやりな気持ちで携帯を見ると「先に帰ります」のメッセージ。いつもより彼の帰りが早いことに疑問を持ちながらも返信。記念日も思い出せないくらい疲れてた。

雨のせいで体のだるさが増す。得意の早歩きも途中であきらめた。そういえば昨日は何時に帰ったんだっけ。前を歩く、よれたワイシャツ姿の男性が遠ざかる。家までの一本道をとぼとぼ歩く。

家に入ると、ただいまの代わりにグチが出た。「もうキツイ」おかえりの代わりに「じゃあ、どうしようか」と彼が言った。それには答えずに、飲み物を探すために冷蔵庫を開けた。そこにはケーキの箱があった。わたしのお気に入りの店。扉を開けたまま振り返ると彼が笑顔でこちらを見ていた。

忘れてた。入籍記念日のことじゃない。もっとたいせつなこと。朝のひとり言は、ひとり言じゃなかった。わたしはふたりで生きてるんだ。

先週、おじいちゃんの葬儀で65年連れ添ったおばあちゃんが言った。「夫婦はね、子どもの愛情とはちょっと違うんよねぇ」子どもと親は一対一。夫婦は二人で一つ。そんな意味だろうか。ケーキと一緒にかみしめた。そして、今日が結婚記念日よりもランクアップした。

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