不器用すぎる父を許した日
書くって、人の心を動かせる。
なぜなら、心を書くから。
旦那さんに勧められて応募した、父の日エピソード。知らぬ間に発表されていて、ハイボールグラスが届いて、あわてて喜んだ。
キライなはずのフェイスブックフェイスブックなんて死んでしまえ。 - 天狼院書店で、みんなに自慢したら、尊敬する人からコメントをもらえて、がんばること、それが報われることは人を喜ばせるんだと思った。なぜか、その尊敬する人からありがとうございますとお礼まで言われた。
書くって、なんだ? とベストセラー作家にでもなった気分でもんもんとしていたが、わたしは自分のことしか書けない。それはつまり、心の話。どんな景色で、どんなタイミングで、どんな人といっしょにいて、何を思ったか。
特別だと思われてる人、特別だと思われたい人はいっぱいいるけれど、特別な人ってほんとうはいないんじゃないかとおもう。だから、わたしの心の話が入選した。「自分とおんなじだ」と思った人がたくさんいるから。
自分の話を書いてくれてありがとう。心を代弁してくれてありがとう。そんなありがとうだったら、うれしい。
この入選を機に、書くってなんぞやなんて、たいそうな大義名分は捨てよう。心を書く。きっと単純で、きっと気持ちがよくて、あわよくば誰かを救えるように。
【不器用すぎる父を許した日】
父と面と向かって話した記憶はない。
本当は話したい。だけど「女の子と話すのが苦手なんよ」とリビングからこそこそ出て行く父をフォローする母にさみしさを見透かされているようで、納得したフリをしていた。
大事な報告はいつも母経由で、本社に異動のときも、いつ知らされたのかもわからないまま、引っ越しの準備が進んでいった。
出発の日、母と始発の新幹線に乗るため博多駅まで送ってもらった。駅前のロータリーで「じゃあね」と別れた。それだけだった。新幹線のドアがむなしく閉まる。
通路側に座った私に母が「お父さん、見るって言っとったよ」と言った。え……。父の職場の屋上から、新幹線が見える。低いビルや家がたくさんあるから、見つけられないかもと身を乗り出した。
いた。まだスピードの出ていない小さな窓から見えたのは、しっかりとこちらを見つめ、ひとり立つスーツ姿の父だった。離れているはずなのに、ずっと大きく見えた。涙がとまらなくて、大好きなサンドイッチもしばらく食べられなかった。
お父さん、あなたはどうしてそんなに不器用なの。おかしいね。でも、もういい。ありがとう。お父さんに愛されてるってこと、わかってたから。
「父へのメッセージ 2017」入選作品発表!|シングルモルトウイスキー山崎|サントリー