まいにちワンダーランド

~過去をはき出し光に変える毒出しエッセイ~森中あみ

一貫性を通そうとするから、自分が矛盾してくるんだ。

「この画面の向こうにいる不特定多数の読者に対して書きなさい」

ライティング講座では、そう教わった。

プロのライター、売れるライターになるためには、そこが欠けていては話にならないと。

そうだろうな、と頭ではわかる。読まれる文章、読みやすい文章、伝わる文章を学びたくて講座を受けているのだから。私は。ただ、今でも思う。今思う。読者なんて想定してたら書けない。心がそう言う。言っていた。あの頃から。

違和感がずっとあった。

中学2年で転校したとき、部活のメンバーから無視されていると感じた。毎日、泣いて、泣いて、次の日も泣いて、「もうやめる」と転校翌日から毎朝、一緒に通っていた友達に告げたとき、無視されなくなった。実態は今もつかめない。夢だったような、私の思い過ごしだったのかと思うほど、あっけなく、たぶん2週間くらいのことだったんじゃないかな。だけど、ある晩、私は自分の部屋のベランダから下をのぞき込んでいた。9階から見下ろした地上は、遠くて暗くて、すぐに顔を引っ込めた。だけど、あの夜の感覚は忘れない。忘れたくない。

「こんな想いを明日もするくらいなら」言葉にすれば、そんな感じかな。「終わらせたい」が正しいかも。あんな夜を二度目に体験したことは、39歳になった今でも、これからもないと思いたいけれど、心に残る、あの電灯と遠くに見える家の灯たちとベランダに立つ私を見る、わたしは忘れない。悔しさを忘れたくないんじゃなくて、孤独を忘れたくないのか? いや、孤独じゃない。頭の中には「あいつら」がいたし、廊下の先には親をきょうだいを感じていた。

じゃあ、何? 八つ当たりのようなネチネチとした過去を持ち出す私の目的は何? 教えてよ。知りたい、つかみたい、そろそろ。

言葉にしてしまおう、文字にして、ここに今日、残してしまおう。逃げられないように。今ならできる気がする。さぁ、

人の気持ちを考えたくない。

自分のことだけ見ていたい。

なんて愚かな。なんてみじめな。なんて恥ずかしい。なんて。

読者なんて想定してたら書けない。

私はわたしに書きたい。

書き直しもいらない。この瞬間に出てきた、この瞬間にしっくりきていたら、つじつまなんて合わなくていい。そもそも人は矛盾している。一貫性を通そうとするから、自分が矛盾してくるんだ。な! そうだろ? 男友達同士の会話みたいに、強く、純粋に言いたい。

一貫性を通そうとするから、自分が矛盾してくるんだ。