まいにちワンダーランド

~過去をはき出し光に変える毒出しエッセイ~森中あみ

私の夢は、黒柳徹子さんです! なぜなら、いつも・・・・・・!

「好きな芸能人は、黒柳徹子さんです」

 

いつもこう答えてきた。たぶん小学生くらいから意識していた。小学三年生くらいのときにSMAPがデビューして、「ねぇ、スマップって知ってる?」とマセた女の子に聞かれたけれど、スナップ写真か何かのことかと思ったし、その頃からわたしの興味は、山下達郎とか美空ひばりだった。担任の先生ならオトナだしわかってくれると思って、「あみちゃんはどんな芸能人がすきなの?」と聞かれたから、元気よく答えたのに「シブいね……」と返されただけで、その後会話が続かなかったので、わたしの趣味は同級生にもオトナにも理解されないものなんだと悲しくなり、いつからか口にはださなくなっていた。

 

土曜の夜九時、家でテレビをつけていると必ず出てくる徹子さん。ハツラツとした声、たった一人だけ正解する頭の良さ、周りを気にせずドンドン質問する気持ちのよさを見て、私はいつも「てつこ〜! また正解した! すごいわぁ、てつこぉ!」とアイドルへの声援並みに徹子さんを応援していたのだった。

 

ここからは失礼ながら敬愛の意味で徹子と呼ばせていただく。ジャニーズファンがキムタクを拓哉と呼ぶように。徹子のエピソードで好きなものは、小学生の頃スパイになりたかったという話。よく忍者ごっこをして遊んでいたそうだが、あるとき同級生の男の子から「そんなにおしゃべりじゃ、スパイにはなれないよ」と言われ、「あら、それもそうね」とあっさり諦めた。

 

徹子は動物とも話せる。動物園に行ってサイの親子がめずらしく外にでていた。お客さんがこぞってカメラのシャッターを押していると、母親のサイが子どもに危害を与えると勘違いをして子どもを奥にひっこめてしまった。飼育員がうながしてもダメ。諦めていたところに徹子が窓越しに話しかけた。「お母さん、あのね、かわいい赤ちゃんを見せて欲しいの。わたしたちは悪いことをしようとしているのではないわ。奥に引っ込めていたら、あなたのかわいい赤ちゃんが見えないわ、どうかお願い」と人に話しかけるかのようにフツーに言ったところ、サイのお母さんがスーッと子どもを自分の前に出し、写真を取らせてくれたそうだ。このときの話を徹子は「赤ちゃんだとか、動物だとかね、みんな意識しすぎなの。対等に話せばわかってくれるのよ」と。一人一つまでとされていた質問なのに相手が答えてくれるなら、とドンドン質問した。その相手は、どこかの国の女王様だったとか。

 

もうどれ一つとしておもしろくないものはなくて、動物だろうが、女王様だろうが、誰に対しても同じ態度でいられる徹子を尊敬していた。徹子のようになりたいとずっと思っていた。だから、なぜ? どうして? と聞かれたときにポンと返せないのがくやしかった。だって徹子は頭もいいし、おもしろいし、有名人とのエピソードもたくさんあるし……! それじゃ、どうも説得力がなかった。でも、そこまでつっこんでくる人もいないし、私が好きでいさえすればそれでいいんだと徹子への思いを募らせることで、もどかしさを解消していた。

 

先週の金曜日、本を読んでいたら「上機嫌にテンションよくやっていれば、何事もうまくいく」という一説にピンときた。誰が言った言葉なのだろうと検索していくと「上機嫌の作法」という本に行き着いた。言葉と本は関係がなかったのだけれど、「上機嫌」が妙にひっかかって、30分悩んだ後に電子書籍の購入ボタンを押した。

 

そこには、上機嫌は強運を呼ぶ、機嫌はコントロールできる、上機嫌な人はできる人などと、いかに上機嫌が人にとってすばらしいことかが書かれていた。「上機嫌=バカ、不機嫌=知的」という方式は間違っている、逆だと。なるほどなぁ、と感動した。そうだ、わたしも上機嫌で生きていこうと決めてみた。意識し始めてすぐに、上機嫌になれないことでも、上機嫌でいることの大変さとすばらしさ。それをじわじわと感じてきた。

 

そこに、きた。徹子はいつも上機嫌だ。そうだ、徹子はどんなときでも上機嫌ではないか。小学校を退学させられても、個性はいならいと言われても、そのときは辛かったと思うが、すべてを逆転させて今の徹子を作っている。昔話を語る徹子が暗い顔をしているのは見たことがない。誰に会うときもそう。いつも笑顔。

 

「上機嫌の作法」に書いてあった。まずは健康でいること、自分が上機嫌でいられる方法を知ること。徹子のファッションは相手を喜ばせるためだと言っているが、自分をいかに上機嫌にさせていられるかを徹子は知っている。上機嫌は最強だ。わたしは最強の人間になりたい。明日からこう言おう。「好きな芸能人は、黒柳徹子さんです。なぜなら、スペシャル上機嫌だからです!」いつかご本人に会えることを夢見て、わたしは今日も上機嫌にこれを書きます。

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