まいにちワンダーランド

~過去をはき出し光に変える毒出しエッセイ~森中あみ

やらなくてもいいことをやる。50歳までのマイストーリー。

「40歳の誕生日までの10年間は、流されずに生きよう」

10年前、30歳の誕生日にノートに書きなぐった。彼氏なし、もちろん結婚予定もなし、の状態が残念過ぎた。母親にも話せない気持ちがたまりすぎると、隠してあるノートにはきだす。1年に一度あるかないか、だけど、あの日の気持ちは覚えている。

後悔。

ハタチからの10年間、何も手にした気がしなかった。早稲田大学に通って、東京での一人暮らしをした。ラクロス部で今でもつながる友達もできた。ディズニーランドでアルバイトもした。尊敬できる教授にも出会った。教授主催の会では、卒業して17年たった今でも、東京に行ってお酒を飲んで言いたいことを言える友達。友達を信用できなくなった片思い。田舎者だと思い知らされた男の子からの一言。お金を出すことでつなぎとめようとした愛。自分を殺すことでつかもうとした結婚。早くに結婚して子供もいる友達にはいた上から目線の発言。弱い親を見たくなくて逃げたあの時期。プライベートがうまくいかなくて職場の後輩に激しく八つ当たりした。

それでも私は人生を正当化したかった。

いつか、いつか。

今に見てろ。

誰に? 自分にだったのかもしれない。

思い出ばかりは頭の中にあるのに、心には何もなかった。

「私を愛してくれる他人」

そんな人が一人だけいてくれたらよかった。

それだけで、すべてが満たされる。そう思っていた。

それは間違っていなかった。

夫と出会って8年が経った。

「32歳で出会った私が、40歳になりましたよ。どうですか?」と聞くと、「何も変わってないです」と寝室で即答した。娘を寝かしつけるために21時に部屋中を真っ暗にして、一つの部屋に集まっていたから顔は見えない。でも、笑っているのはわかる。「髪が短くなっただけです」

夫がめずらしいタイプだというのは自覚している。

だけど、こんな夫と巡り会って1年もしないうちに結婚して、今、2人目を妊娠しているのは、あの日、ノートに書きなぐった気持ちと、それに答えた神様が「住む場所を変える」選択肢を用意してくれたからだ。

暗闇の中で、10年間を振り返りつつ、夫に言った。

「そうなんだよね。今、わかったけどさ、私、しなくてもいいことをしたほうがいいんだ。これまで、学校、就職、結婚っていう人生のレールに沿ってきたけどさ、京都にいくってことはやらなくても誰にも怒られないもん。むしろ、なんでそんなことするの? っていうことをしたほうがいいんだ」

2年前、娘が2歳の運動会が終わってすぐ、私は京都駅から博多行の新幹線に乗った。義理の両親と夫に娘を預けて。目的は、長崎の壱岐でダンスを踊るため。

「なんでそんなことするの?」

「やりたかったから」

それでいいのかもしれない。

今日、美容院に行く電車の中でブルートゥースのイヤホンをさしたら、その時の曲がふいに流れてきて聞き入った。そのまま、iPhoneに保存してある当日の動画を1年ぶりくらいにみた。へたくそなのに一番笑顔で踊っている38歳の私がいた。

「なんで、そんなことするの?」

子どもにもよく思う。ゴミを床に落としたり、お菓子を最後まで食べないのに次のものをせがんだり。水たまりをばちゃばちゃやったり。

「やりたかったから」

それしかないよね。

人生はシンプル。

 

そういうことなんだ。

シンプルに生きるアンテナを鈍らせないように、50歳までの10年間は「やらなくていいことをやる」こう決めた。

夫が暗闇で「そうやね」と、うなづいた。