まいにちワンダーランド

~過去をはき出し光に変える毒出しエッセイ~森中あみ

片側だけの世界で生きてきた。

これまでフツーに聞き流していた言葉がキライになった。

大嫌いになった。

たとえば、健常者。

「うちの子は健康じゃないって言うの?」

それから、普通。

「フツーってなんだよ! みんな違っていいんだろ?」

やたらと噛みつきたくなる。

そんなこというなんて、アイツは人の気持ちがわからない。

本当は私の気持ちをわかってほしい。

認めて欲しい。



晶子は、きっと障害者なんだろう。

今は、と言いたい。

フツーの赤ちゃんみたいに手足をバタバタしないし、産まれてすぐに泣かなくて、呼吸器をつけていた。生まれて3日後に水頭症の手術をした。

52日間、NICUにいた。今も鼻からミルクを飲んでいるし、パルスオキシメーターをつけていて、けいれん止めのお薬を1日2回飲んでいる。

平日は毎日看護師さんが来てくれて、週に1回は運動リハビリ、月1回は言語聴覚士さんが飲み込みや言葉などを見に来てくれる。

これは、きっと、ではなく障害者なんだよね。

健常者ではなく、フツーでもなく。

だけど、て言う。

晶子のおかげで、私はどれだけ多くの人に出会っただろう。産まれる前から今日まで、NICUにいた日数と同じくらいの新たな人と出会わせてくれた。

その度にお母さんは、私は、

「こんな世界があるんだ」

晶子が健常者としてフツーに生まれてくれば、出会わなかった人たち。NICUの医師、看護師さんだけじゃない、クラークさんという受付の人、師長さん、同じくNICUに通うお母さんたち、家族。

周産期病棟にいた看護師さん、妊婦さん。今もあそこで、あんな風に過ごしているんだろう。今は晩ごはんが終わってテレビでも見てる頃かな。

産婦人科の先生たち、助産師さん、麻酔科、整形外科、小児科、脳外科、耳鼻科、リハビリの先生たち。

駐車場のおじさん、受付のおばさん、会計の人たち。話すことはなくても、そこにいてくれた。

今は訪問看護師さん、理学療法士さん、言語聴覚士さん、保健士さん、保健所の人。

もしかして50人以上いるのかも。

健常者しかいない世界、フツーだけの世界。そんな世界はなくて、私の知らない世界、知っている世界、もちろんどちらもあるから、今なんだ。

それぞれは比べるためにあるのではなく、自分の存在を感じるためにあるのだと思いたい。

今も働く彼ら、これから出会う人たちと、私の世界を共有できることが喜びだ。

私の左胸で息をする、晶子、我が子。

ありがとう。

右側でひとり、ごはんを食べながらYouTubeを見る智子、我が子。

ありがとう、だいすきよ。

隣の部屋で仕事をする旦那さん。

あなたと出会ってから、ずっと幸せだよ。

そんなことを想う、夕暮れ。