まいにちワンダーランド

~過去をはき出し光に変える毒出しエッセイ~森中あみ

神さま、天使さんからの言葉は人から聞く(あやしいけど、ほんとの話)

私は空の上にいる。

私の大切な人は空の下にいる。大切な人が悩んでいる。悲しんでいる。

私は空の上にいるから、過去も未来も見渡せる。答えがすぐにわかる。「あの子に今すぐ教えてあげたい。こうすればいいんだよ。そんなに苦しまなくていいんだよ」

行こうとすると、神さまに止められる。

「ダメだよ。自分で決めさせないと、生きる意味はない。誰かに教えてもらう人生ゲームなんて、面白くないだろ。」

「だけど、あんなに苦しんでる。助けたい。こんなに簡単なことなのに」

天使さんがアドバイスしてくれる。

「ヒントをあげたらいいんじゃない?」

「ヒント?」

「そう、たとえば、あの子が見ているYouTube動画とか、あの子の近くで話している人に言わせてみたら?」

「それなら、やってあげてもいいの?」

神さまは、うんとうなづいた。

「インスピレーションとして届くだろうね。選ぶかどうかは、あの子次第だから。」

あなたはさっそくやってみた。

今、あの子は病室にいる。目の前に、産まれて4ヶ月の赤ちゃんが寝ている。何度も手術をして、入院中だ。お母さんとして、明るくふるまっているけれど、心はぼろぼろ。ふと気を抜けば、泣いてしまいそう。それを隠すために、看護師さんとたわいもない会話で盛り上がっている。

看護師さんが出て行く。ひとりぼっちになった、あの子。この後、赤ちゃんは頭の検査がある。状態が悪ければ、入院が長引くかもしれない。

午前中のミルクの時間、急に発疹が出て、看護師さんが医師に連絡していた。あの

あの子の不安が増していってる。大丈夫だよ、と声をかけてあげたい。まわりは、慎重に進めているだけだから。何でもなかったと言いたいから検査するんだから。

あの子の隣にいる患者さんにリハビリの先生が訪ねてきた。あの先生の力を借りよう。

「大丈夫ですかぁ? すこしずつ、良くなってきていますね」

あかるくハリのある声の先生だ。頭の手術をして、すこし目が見えにくくなっているおばあさんに話しかけている。

おばあさんは涙ぐむ。おばあさんも不安なのだろう。誰も面会に来られない世の中になってしまったから。さみしさとむなしさは、募っていく。

「大丈夫ですよ。あのね、僕はたくさんのリハビリをたくさんの人にしてきたんですけどね。お子さんでも、大変な手術をしてリハビリが必要な子もいるんです。先天性といってね、産まれたときから、頑張らないといけない子もいてね。

そんな子のね、お母さんが言ってたんですけどね。この子が、きっとこれを乗り越えるために選んで産まれてきたからって。人は乗り越えられない試練は経験しないから。このお母さんだって思って産まれてくるんだって。

ね、すごいよね。米田さんもね、ふたりもお子さんを育ててね、すごいですよね。だから、がんばらないとね」

あの子は、カーテン越しにその声を聞いていた。リハビリの先生の前に座るおばあさんは、泣いているようだった。まもなくして、検査に呼ばれた。

検査室の前で待つ間、悲観的な気持ちは打ち消して、大丈夫、大丈夫と自分に言い聞かせていた。

結果は、まずまずだった。今すぐ何か対処しなければいけないことはない。これまですごく真面目だった先生が、医者としてではなく、人間味のある明るい発言もしてくれて、あの子は笑っていた。

夜になって、静かな病室でリハビリの先生の言葉を思い出す。

悲観的になるのには、もう飽きた。明るい気持ちでいれば、目の前の人も変わってくれる。そう思っている、あの子の友達からメッセージがきた。

「奇跡を起こそう」

あの子が数日前にノートに書いた言葉だ。

あの子は、驚きとうれしさで友達にメッセージを返していた。

よかった。

ふと、隣をみると、私の妻が笑顔であの子をみていた。私たちは、あの子のおじいちゃんとおばあちゃんだ。

これからも応援するから。

メッセージ、ちゃんと受け取るんだよ。



これは今日、体験したわたしの話です。きっと、おじいちゃんとおばあちゃんが届けてくれたと思うから。