【考えた】人生のかけひき 〜取り忘れた洗濯タグ〜
「コートに洗濯のタグ付いてますよ」
思いっきり引っ張って、恥ずかしさといっしょにカバンの中にガサッと入れた。「ね、わたしフツーでしょ」と平然をよそおいながら男性を探した。しかし、もう彼はいなかった。
朝の通勤時間。
行き交う人でごったがえす駅。後ろから突然声をかけられた。びくっと声のする右横を振り返ると50代くらいの男性。わたしにだけわかる声でそっと告げて、そのまま目線を合わせずスーッと人混みのなかに紛れていった。
え、え?男性を目で追いながらも、クリーニングのビニールから今日出したばかりのコートをあちこち確かめる。私を通り過ぎる人たちは、あからさまに迷惑そう。あった!コートの後ろのベルトにくっついていた。
職場のロッカーで制服に着替えながら、興奮ぎみに後輩にその話をした。「その人、すごいですね」そうなのだ。あそこでわたしに声をかけるメリットは何もない。けれど、彼はあえてそうした。
「いっしょにごはんはいかがですか?」
昼の時間。
職場近くのうどん屋。カレーうどんを注文すると、スタッフの女性が笑顔でこう言った。店内はほぼ満席。わたしに時間をかけているヒマはないはず。それなのに、なぜこの人はこんなこと言うんだろう。2分足らずで出てきた熱々のカレーうどんといっしょに、さっきの女性がさらにこう言った。「熱いので気をつけてくださいね」しっかりとわたしの目を見て。
OLのうどんランチにセットでごはんって。フツーはない。けれど、彼女のあえての行動になぜか惹かれた。ここのうどんは好きだけど、今日はごはんの方がおいしかった。
あえて、何かをする。
- あえて、注意する
- あえて、声をかける
- あえて、ほめる
その先にあるものは何か。
相手への思いやり。
わざと洗濯タグをつけて歩く人はいない。13時過ぎに温玉入り牛すじカレーうどんを頼む人は、たいていおなかをすかせている。そうかもしれないけれど、嫌がられるかもしれないし。断られるかもしれないし。そんなかけひきの後、わたしならあえて言わないを選択する。しかし、今のわたしには言ってくれたことへの感謝の気持ちしかない。
じぶんが傷つかないための人生のかけひきよりも、相手のためにやってみて、次に進める人生にしたい。
師走の空に想う。
あえての行動。
よかったら、みなさんもお試しあれ♡