まいにちワンダーランド

~過去をはき出し光に変える毒出しエッセイ~森中あみ

料理のレシピはすぐ検索するのに、自分へのアドバイスは誰にも聞かない。それ、私です。

「玉ねぎがしんなりしたら、お肉を入れて、味付けは砂糖から…」

牛丼を作っていた。

結婚してすぐにはじめてがめ煮を作った時、電話で母が「味はなんとでもなるけど、まずは砂糖を一番に入れなさい」と言った。そんなもんか、と思ってやってみた。砂糖は後から付け足しても、味は変わらないから、という意味らしい。料理のさしすせそ。

肉と玉ねぎとしょうゆと砂糖とお酒を、ぜんぶまとめてフライパンに入れてもおいしい牛丼はできない。

材料は全部そろっていても、順番とコツを間違えたら取り返しがつかない。

本気で起業を考えだした私。

誰からのアドバイスもなくスタートするのは、材料をぜんぶ入れる料理と同じ。やることはやっているはずなのに、なんかおいしくないどころか、まずい。つまり失敗する。

「私のことなんて誰にもわからない」

俳優さんがテレビで言ってた。前後の脈絡は知らないけれど、妙にひっかかった。

これまでずっと、私にアドバイスなんて必要ないとプライドだけで生きていこうとしていた。その俳優さんには「あやういな」と感じたのに、自分のことは防御したままだった。

毎回、料理のレシピは検索するのに自分のことは誰にも聞こうとしないのはバカだな、と出来上がりかけた牛丼を見て腑に落ちた。